Naughty Kid 怒りの日

Anger is an energy, it really bloody is

Children of revolution

小学5年生のとき、更年期のババアみてえなヒステリックでやかましい出っ歯のおばさんが担任になった。

ドラゴンボール北斗の拳も暴力的だから見てはいけません」などと平然とぬかすような典型的な昔ながらの教育者タイプで、クラスを扱い易いように明確なルールを決めて個性を一切尊重しない奴だった。

何て頭の悪いやつだと思ったね。

カメハメ撃ってる奴見たことあんのか?空飛んでる人間は?あべしっ!なんて言って頭吹っ飛んだ人間なんてどうやったら拝めるってんだよ。

 

現実と漫画の区別がついてない漫画脳ってのは本来ああいう奴らのことを言うんじゃねえか?

 

オレの住んでる地域は特に漫画、アニメ、ゲーム、映画に関してうるさい大人が凄まじく多かった。

なんせ隣の村に住んでる女の子がオタクのシリアルキラー宮崎勤”に殺され喰われたって恐ろしく痛ましい事件があったんだよ。

 

小学二、三年生の頃だったか、あの時はマジでスティーブンキングのITみたいな状況だった。

彼女は3人目の被害者だったと思うが、犯人の目星が一切つかず、犯人がどこに潜んでるかわからない状況でさ、ターゲットは小学生だってんだから町は大混乱。さながらホラー映画の世界にぶち込まれた気分だった。

なんせ誰かが見かけない車が止まってたって言っただけで警察が出動するような始末だぜ?

オレ達ガキ共は毎日その話で持ちきりさ。

襲われたらハサミで刺しちゃえなんて言ってさ、みんなハサミを忍ばせて帰ってたもんな。

なもんで残虐なアニメや映画を見たら将来殺人鬼になっちゃう!なんて妄信してヒステリー起こしてるババアが山ほどいたのさ。

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オレを含む5人の”悪たれ”どもは毎日のように馬鹿なことしてた。

引いてた奴もいたが、クラスの連中は喜んでたと思う。

オレ達は全員と仲が良かったし、スクールカーストみたいなクソシステムが大嫌いだったしな。

誰が上とか下とかそんなもんにまるで興味なかったし、それぞれの個性ってやつを尊重してた。

逆に弱い者イジメなんてやってる奴は徹底的に追い込んでたくらいだしな。

なんせオレ含め仲間は貧乏な家のガキだ、社会的にみたら圧倒的にオレ達は弱者側だろ?

“下を作って悦に入る”なんてしょうもねえ行為だし、オレ達はただ毎日楽しく過ごしたいだけだった。

 

一方であの”出っ歯”はよくわからないルールを押し付けてて毎日みんなムカついてたよ。他のクラスよりやたら宿題多かったし、不公平だってね。

 

「まあ見てろ、いつかあの出っ歯黙らせてやるぜ。」みんなにそう言って回ってオレ達は虎視眈々と反逆のチャンスを伺っていた。

 

ある日クラス内でお菓子を持ち込んで昼休みにパーティーをするのがブームになった。

男の子も女の子も、絶対してはいけません!なんて説明もなしに押さえつけられりゃかえって悪さしたくなるもんだろ?

 

ー何故ガキどもの悪さはなくならないのか?

そりゃ快感だからに決まってんだよ。

なら他のことに興味を持たせるようにきっかけを与えるのが大人の役目だと思うぜ。

実際、オレは音楽の道に進まなきゃドラッグディーラーかコソ泥で人生終えてただろう。ー

 


おそらくは他のクラスの連中がチクったのか、オレ達の”パーティー”は1週間でバレて、これは大問題とばかりに放課後のホームルームで物々しい”裁判”が開廷された。

わめき散らす出っ歯の面ったらなかっぜ。まるっきり魔女だなありゃ。

 


はっきり言ってこんなことの何が問題なのか?しかしあの時代、田舎のクソ学校じゃ大問題なのさ。

退屈かつ無意味なお説教、犯人探し…くだらねえ。

暇で仕方ねえ連中は人の粗探しに講じるしかやることがない。

クソみたいなゴシップを追いかけてるような連中と一緒だよ。

どこにだってこの手の連中はいるもんさ。学校に会社、部活やサークル、仲良しグループしかり、大小問わず組織ができると必ずこういうバカが現れる。

 

ムカついたオレはドラゴンボールが見れなくなるのが嫌で犯人だと名乗り出てやった。

無駄な時間を過ごすことに苦痛を感じないなんてどうかしてるぜ。

人生は一度きりって言葉あのババアは聞いたことないのかね?

 

出っ歯からゲンコツをもらい(あの頃は体罰は日常的に行われていて誰も問題視してなかった)クソみたいな念仏を懇々と聞かされた後、親を呼び出され一緒に怒られた。まあ、母は話半分聞いてそれらしい態度で申し訳ありませんって平謝り。


帰り道すがら

「めんどくせえババア。くだらねえことでいちいち呼び出すんじゃねえよ。」とポツリ

 

ー母の好きな点があるとすればこの辺だ。偉そうな大人はクソくらえ、大したことしてねえくせに”わかってる”って奴には大体ムカついてた。

そもそもこの”悪魔”も学校嫌いだったんだろうことは容易に察しがつく。夢見る16歳は常に反抗期ってわけだ。ー

 

しかしこれはある意味チャンスだった。

お菓子事件以降クラスの仲間達の担任対するフラストレーションはかなり高まっていたからだ。

 


オレは仲間達と相談し、あることを思いついた。

当時大好きだった映画「僕らの7日間戦争」あれをやらかそうじゃねえかって話だ。

 

映画は中学生の話だが、小学生で実際にやれたら伝説にになるだろうっていう単純明快かつガキっぽい発想だが。

 


果たしてどんだけの賛同者を集められるか?他人を巻き込んでやるとなると最大の焦点は責任問題になる。

リスクは背負いたくない、怒られたくない。誰もがそう思うことはあの退屈な”裁判”でわかっていた。

導き出した答えはシンプル。

 


「全責任はオレが取る」

 


日常的にオレによるイジメがあり、誰も逆らえなかったという設定にしちまえばいい。

なんか言われた全部オレの名前を使ってくれ。あいつに脅されたんだと。

 


オレはクラス1人1人に直接説得にあたりボイコットの作戦を進めた。

 

誰かが得するわけでもない、ただ大人に強烈な一撃を食らわせてやりたい。

ただその一心だった。

ガキはガキらしく大人の言うこと聞いておけって?

オレの話を一切聞かねーやつの言うことなんか聞いてられるかよ。

 

家じゃ押さえつけられ、救いなく、行き場もなくただひたすら苦痛に耐えてきたってのに学校でやっとできた居場所まで取り上げられるなら戦うしかない、主張すべきだと思ったんだよ。

オレは幼少期にクソみたいな野郎のお陰で何度も部屋を叩きだされてきたんだ、これ以上取り上げられるのはごめんだった。

それに11歳ともなりゃもう黙ってられるほど馬鹿じゃねえ。一歩間違えりゃ人だって殺せる歳だぜ?

 

ボイコット決行当日、学校に行くふりをして待ち合わせ場所に指定したオレ達がたまに秘密基地として使ってた廃工場に待っているとクラスの連中が1人、また1人とやってきた。

 

総勢18人クラスは30人だから半分以上が来てくれた。

始めて学校をサボる。

なんだかいけないことをしてるってだけでガキの頃はワクワクするもんだろ?

ましてやみんな仲良しのクラスのメンバーが揃ってるわけだから遠足にでも来たよう気分でみんなハイになってた。

 

秘密基地でワイワイやってると担任と別の先生2人が基地内にやってきた。

 


「お前ら学校も行かずに何やってるんだ!」

 

近所の人が学校へ通報したのか僅か数時間のボイコットは幕を閉じた。

しかし、オレにとっては満足のいく結果だったね。

賛同者18人は上出来だろう?

 

クラス全員とみんなの親全員が招集され緊急でこの問題についての話し合いが催された。

 

「全てオレが仕組んだことです。クラスのみんなは悪くないです、先生が嫌いで困らせたくてやりました。」

 

素直に答えてやった。

こんなことは前代未聞だと大人たちはザワつき、ゴミでもみるような蔑んだ目つきでオレに視線を向けたわけだが、何だか笑えたね。

奴らからすりゃうちの子を巻き込みやがってって疑いもせず思ってるわけだろ?マジな話、チョロい奴らだなって思ったよ。

一方で母は怒り心頭で今にも殴りかかりそうな雰囲気だった。

一言で言えば鬼の形相ってやつだ。

 


無言のまま家に着き、部屋に入った瞬間、母から布団叩きで全力で頭を殴られた。

 

地面に横になり亀のように丸まって体を守ろうとするとその上から布団叩きが折れるまで何回も何回も全力で殴られる。

 


「恥をかかせやがって!何でてめえはじっとしてられないんだ!死ね!死んじまえ!キチガイが!お前なんか産まれてこなきゃよかったんだよ!」

 


こんなものはもはや慣れっこでこれまで何百と繰り返してきたことだ。

早く終わらないかな?とかそんなことを冷静に考えていたような気がする。

 


“産まれてこなきゃよかった”

てめえで放り出しといて、なんて勝手な言い分なんだろうな。

こっちはいつ頼んだんだよ?

 


うちの家族は誰一人としてオレの行動を理解できなかった。

兄貴は大人しいのに対してオレは常にトラブルばかり起こすもんだから余計にだろう。

母はこの時期くらいから真剣に悩んでたんじゃねえか?

もう暴力だけじゃ歯止めがきかなくなってきたし、口論になってもオレが言い負かす時も増えてきた。

今を思えばこの時から家を追い出されるカウントダウンが始まってたんだろうな。

 

 

 

翌日、アザだらけで痛む背中をさすりながら学校へ行くとクラスメートに労いの言葉をかけられた。

 


「昨日大丈夫だった?」

 


「余裕だぜ、そんなことよりみんなも怒られたんじゃないか?」

 


「怒られたけど楽しかったから平気!」

 


みんなを巻き込んじまった手前、後ろめたさが少なからずあっただけにホッとした。

 


一方、担任の出っ歯は意気消沈としており覇気は消え失せ明らかに様子がおかしかった。

程なくして出っ歯は学校を去った。

どっかに飛ばされたのか、自主的に辞めたのかどうかはよく覚えてないがとにかく奴はオレ達の前から去った。

 


ざまあみやがれ!

クラスの連中の中には”罪悪感”を感じた奴も少なくなかったが、オレはこの勝利に喜んだよ。

 


オレのようなガキがいることを奴は知らなかった、いや知ろうとすらしなかった。

そもそも奴はオレがどんな人間かなんてことすら興味もなかった。

バカめ、オレ達ガキが牧場でメェメェ泣く檻の中の子羊だと思ったか?

犬に追いかけられようが立ち向かえる”意思”はあるんだよ。

 


“わかってる”って面した大人をギャフンと言わせるのは最高に愉快だったね。

何が”仰げば尊し、我が師の恩”だよ。

歳を取ってりゃ無条件で敬えなんてふざけたシステムが許されるわけねえだろ。

 


ーオッサンになって更に強く思うことだが、無駄に40年過ごしてきたような奴らなんかより濃密な20年を過ごしてきた若者の方に敬意を表すべきだと思うね。

余りにもつまらない大人が増え過ぎた。そいつらときたら、てめえは空っぽの癖に若いやつはどうのこうのとかぬかすんだよ。

帰ってネットのエロ動画でシコってるような奴らが笑わせるぜ。ー

 


全てやりきったオレは絶好調で完全に大人を舐めきってた。

大人なんか怖かねえ、ムカついたらやり返してやるぜ。

“子供という責任能力のない立場を利用してしまえば、最後はオレ達以外の大人が責任を取らされる。”

これを学んじまったガキは最低最悪で、”先生”とやらには徹底的に嫌われた。

オレは学校1の嫌なガキに変貌した。

暴力でもダメ、言ってきかせてもダメ。なら放っておけって感じだろう。

ところが翌年、6年生になったとき、人生最大の恩師であり、じいさんとならぶ数少ない”信頼できる大人”小川先生と出会うことになる。

オレの人生の指標となるべきあの恩師と…